沖縄県差別のない社会づくり条例について

 沖縄県議会令和5年第1回定例議会において話題となった議論の一つとして「沖縄県差別のない社会づくり条例」(令和5年4月1日から施行されています。ただし、第11条及び第12条の規定は、令和5年10月1日から施行)がありました。

この条例は当初はこれまで議会へ要請のあった「ヘイトスピーチ規制」に主眼を置いたものでありました。様々な議会での議論、パブリックコメントを受けて広く人権を尊重し多様性を活かすための条例となっています。

当初の趣旨であったヘイトスピーチについても「不当な差別的言動に対する施策」ということでまとめられています。そこで「ヘイトスピーチとは何か?」を法務省人権擁護局のサイトを見てみました。

『特定の国の出身者であること又はその子孫であることのみを理由に、日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの一方的な内容の言動が、一般に「ヘイトスピーチ」と呼ばれています (内閣府「人権擁護に関する世論調査(平成29年10月)」より)』

例として以下のようなものが挙げられています。

(1)特定の民族や国籍の人々を、合理的な理由なく、一律に排除・排斥することをあおり立てるもの(「○○人は出て行け」、「祖国へ帰れ」など)

(2)特定の民族や国籍に属する人々に対して危害を加えるとするもの(「○○人は殺せ」、「○○人は海に投げ込め」など)

(3)特定の国や地域の出身である人を、著しく見下すような内容のもの(特定の国の出身者を、差別的な意味合いで昆虫や動物に例えるものなど)

それを見聞きした方々に、悲しみや恐怖、絶望感などを抱かせるので、あってはなりません。さらに人々に不安感や嫌悪感を与えるだけでなく、人としての尊厳を傷つけたり、差別意識を生じさせることにも繋がります。

今回の沖縄県差別のない社会づくり条例には

9条「県民であることを理由とする不当な差別的言動の解消に向けた施策」

10条・11条「本邦外出身者等に対する不当な差別的言動に関する施策と措置」

を制定しています。しかし対象を県民や本邦外出身と定めることで、県内居住者以外の方は対象でないために県外からの観光客や一時的な滞在者などは含まれず公平でない条例になりかねないと考えます。担当課は条例が効力を発揮するのは県内であることから県外在住の方々に対しては範疇外ということであり、県内に住む方のすべてを対象としていると言っておりました。

ちなみに与党会派からは「沖縄にルーツを持つ民族としては対象にならないのか?」という旨の質問が委員会でなされていました。つまり県外にいるウチナーンチュのことです。

かつて、私の両親の世代(昭和20年代生まれ)からは県外に移り住んだ県出身者が「沖縄の人お断り」など張り紙もあり、入店を拒否されたと聞いていますが、私の世代(昭和50年)前後からはそのようなことも感じませんでした。それは、多くの先輩や同世代の方々、特に芸能関係で安室奈美恵さんがヒットを飛ばした以降は見る目が変わったと言われることもあります。またスポーツでもボクシング、ゴルフ、野球などを中心として沖縄県出身者が活躍する場面も増えています。先だって世界一となった野球のWBCなどは30人の選手中3人が沖縄県出身者でした。非常に誇らしいことだと思います。

そんな中で沖縄県民が差別をされている民族として定義されると思いもよらぬ新たな差別を生んでしまい、分断を招いてしまうのではないかという懸念あり、私が所属する会派「沖縄自民党」は「差別のない社会づくりについての趣旨には賛同する」ものの、ヘイトスピーチの事例積み重ねもなく、どのようなものがヘイトスピーチなのかも曖昧で、明確に提示できない状況にあることも問題だと指摘しています。

条例は県民に対してルールを定めて守っていただく、いわゆる沖縄県内の法律です。3年後の見直しありきということは提示された案では不十分であると担当課も認めているのではないかとの意見もありました。

法や条例にはある程度の弾力性はあっても良いと思うのですが、それが過ぎると目的を達することができなくなってしまいます。まだ議論が不十分であるということで、今回の委員会では継続審議を求めました。しかし与党と中立会派から賛同が得られず、この議会定例会中に採決に臨むこととなりましたので賛成することはできずに文教厚生委員会、本会議のどちらも「反対」といたしました。

また、個人的に感じたことですが、行政文書であるならば誰が読んでも誤解することのない文書が求められます。「沖縄県差別のない社会づくり」という条例名に対して基本的に県条例では文頭に「沖縄県」と付けるということになっている理由はあるものの、「沖縄県、差別のない」と「沖縄県差別のない」では受け取る印象が異なります。その点も反対討論の中で指摘をいたしました。

しかし、先述の通り人権尊重、差別のない沖縄をつくることには異論はなく、そのためにはしっかりと取り組みをしてまいります。3年後に見直しをするということですので、来年の県議会議員選挙の改選後ではありますが、その際にもしっかりと意見できるような立場であるように励みたいと思います。