沖縄県は、持続可能な観光地の形成と観光振興を目的に、「観光目的税(宿泊税)」の導入を長年検討してきました。これは地方自治体が独自に課税できる「法定外目的税」の一種であり、観光客の宿泊行為に対して課税する制度です。東京都や京都府などでも導入実績があり、全国的にも一定の理解が得られています。
県が想定していた制度案では、ホテルや民宿などに宿泊するすべての者(県民を含む)を対象に、宿泊料金の2%を課税する「定率課税方式」を採用。修学旅行生や引率者は免除対象とし、また宿泊料金が10万円を超える場合には2,000円を上限とする仕組みが検討されていました(参考:京都市では上限1万円)。制度の使途は以下の観光施策に充てる予定とされ、年間約80億円の税収が見込まれていました。
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安全・安心な観光環境の整備(災害対応、海の安全など)
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観光受入体制の強化(二次交通、宿泊施設整備、人材育成など)
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自然・景観の保全(文化財や観光資源の保護など)
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文化・スポーツの振興(伝統芸能、観光スポーツの活用など)
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サステナブルツーリズムの推進
2026年度中の導入を目標に、県は条例案の策定と関係者への説明を進めていましたが、2025年4月25日、玉城デニー知事が突如「観光目的税ではなく使途を限定しない『普通税』への転換を検討する」との方針を表明。理由として、離島住民から「本島への宿泊が日常的であり課税は不公平」との声が出たことや、制度への理解が不十分な点が挙げられました。
この発言は観光業界や宿泊事業者、市町村関係者に大きな混乱をもたらし、「観光振興に使われると信じて協力してきたのに、普通税では信頼が損なわれる」といった批判が噴出。これを受け、2025年5月1日には沖縄ツーリズム産業団体協議会が中川議長と知事に対し、「2026年度中に観光目的税として宿泊税を導入すること」を求める陳情書を提出しました。
また、これまで県主導の制度導入を前提に静観していた市町村の一部では、独自に宿泊税導入を検討する動きが広がりつつあります。これにより将来的に課税・分配制度が複雑化する懸念も出ています。
こうした中、2025年6月27日には、県文化観光スポーツ部の諸見里真部長が記者会見を行い、あらためて「2026年度中の導入を目指す」方針を明言しました。
【RBC NEWS】「宿泊税」導入めぐり県が有識者会議設置へ 2025年9月の条例提出目指す)
県は今後、有識者による新たな審議会(仮称:沖縄観光振興戦略会議)を設置し、制度設計の妥当性や公平性、離島配慮策などを検討したうえで、2025年9月定例県議会に宿泊税条例案を提出する予定です。
この動きにより、「観光目的税としての導入方針は維持されている」ことが確認された一方で、制度の内容や運用形態については、今後の有識者会議や県議会での議論によって流動的な側面も残されています。
令和7年6月の県議会では、知事による普通税転換発言をめぐって、制度の根幹に関わる方針変更として与野党問わず厳しい追及がなされました。一部議員からは、離島住民への免除や軽減措置などを制度に組み込むことで「目的税としての公平性は確保可能」とする提案も出されており、県執行部に対し丁寧な制度設計と説明責任を求める声が高まっています。