AI発展による労働・生活環境の変化
2025年11月2日(日)の NIKKEI The STYLE「文化時評」に「米国で『ブルーカラービリオネア』現象 AI発展で潤う肉体労働者」という記事が掲載されていました。
私自身も、ChatGPTやX(旧Twitter)のGrokなどの生成AIを日常的に活用しています。調べ物の効率化、SNS投稿の原稿作成、文章の推敲だけでなく、議会質問や政治課題の検討時に議論の相手としても利用しています。このブログもAIの力を借りています。
10年前の「なくなる仕事・残る仕事」
2015年8月の同紙「10年後になくなる仕事、残る仕事」では、AIによる職業変化を次のように予測していました。
人工知能に代わられる主な仕事
電話営業員、手縫い裁縫師、不動産ブローカー、税務申告書作成者、経理担当者、データ入力者、保険契約の審査員、不動産仲介業者、ローン審査員、銀行窓口係、タクシー運転手、法律事務所の事務員・秘書、レジ係、クレジットカード審査員、小売営業員、医療事務員、モデル、コールセンターのオペレーター、飛び込み営業員、保険営業員。
生き残る仕事
ソーシャルワーカー、聴覚訓練士、作業療法士、口腔外科医、内科医、栄養士、外科医、振付師、セールスエンジニア、小学校の先生、心理カウンセラー、人事マネージャー、コンピューターシステムアナリスト、学芸員、看護師、聖職者、マーケティング責任者、経営者。
実際の変化と課題
平成30年版総務省「情報通信白書」では、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授とカール・フレイ博士が「今後10〜20年で米国の労働人口の47%が機械に代替され得る」と試算し、野村総合研究所との共同研究では「日本の労働人口の約49%が代替可能」と示されています。
白書は次のようにまとめています。
「AI活用を進めると同時に、人が担うべき質の高い仕事や新たに生まれる職業への移動を促す必要がある。」
実際、AIによって職業の一部は置き換わりましたが、すべてが代替されたわけではありません。データ入力や審査業務などは効率化が進む一方、「何を求めているか」を正確に理解し、AIに指示を与える(プロンプト設計)力が求められています。誤情報(ハルネーション)を防ぐための最終確認も人間の責任です。
ただし、資料作成や集計といった定型業務の時間は大幅に削減され、これまでの10分の1程度で済む例も出ています。AIは単なる代替ではなく、「時間を取り戻す手段」になりつつあります。
知的労働への影響
AIの進展で最も変化が大きいのは、知的労働分野です。
企業のマーケティングは、ブランド価値や顧客体験、文化・感性といった“人間的要素”を扱うため、AIが完全に代替することは困難です。中小企業では経営者自身がマーケティング責任者を兼ねる場合も多く、ここにAIをどう補助的に活用できるかが重要になります。
一方で、経営コンサルティング業界はAIを積極的に導入し、「少人数で高付加価値業務を回す」方向へシフトしています。アクセンチュアやPwCなど大手コンサル企業の人員削減は、経済環境の変化に加え、AIによるルーチン業務の自動化やスキル構造の変化が背景にあります。AIの導入は、単に人を減らすためではなく、労働の質を変える契機として機能していると言えるでしょう。
ハーバード大学の研究では「AIはマーケティング職を奪うのではなく、“AIを使える人”が“使えない人”の仕事を奪う」と指摘されています。つまり、AI活用力そのものが新しいスキル格差を生み始めているのです。
「ブルーカラービリオネア」現象
米国では今、肉体労働者の賃金が上昇し、一部が富裕層化する「ブルーカラービリオネア」現象が報告されています。
トランプ政権は名門大学への助成金を削減する一方で、職業訓練を重視し、2026〜27学年度から奨学金「ペル・グラント」の対象に短期資格取得プログラムを加える方針を示しました。
一方、日本でも様々な業種業界で人材不足が深刻化しています。一例を挙げると、自動車整備士の志願者は2004年度の7万2623人から2024年度には3万5504人へと半減という記事がありました。確かに沖縄でもレンタカー整備や一般車両の点検が追いつかない現場が増えています。その他にも、サービス業・製造業でも外国人材への依存が高まり、生活の中で外国人労働者を見ない日はありません。最低賃金も全国的に上昇しています。沖縄県では令和7年12月1日から71円増の1,023円となります。

とはいえ、一方、米国ではエレベーターやエスカレーターの設置・修理工が年収中央値約1,600万円に達しており、先進国の中で日本の賃金水準は依然として低い位置にありますので、さらなる是正は必要です。
今後の方向性
日本はこれまで、外国人労働者の受け入れで人手不足と人件費上昇を抑制してきたと言われていますが、人口減少と円安が進む中で、この構造が長期的に続くとは限りません。
むしろ今後は、労働環境と賃金体系を抜本的に見直し、「人が報われる社会構造」とする必要があります。
そのためには、政治と民間企業の連携が不可欠です。公務員給与を引き上げ、民間の賃上げの呼び水とする仕組みも一つの方策でしょう。新政権の景気対策でも、医療・介護・輸送やその他、多岐に渡る生活を支えるエッセンシャルワーカーの確保は最重要課題になるはずです。
日本国民の賃金を上げ、生活基盤を整えることに加え、労働力不足を補うためには外国人労働者の受け入れも欠かせません。その際、文化・生活習慣の違いに配慮し、地域社会での共生を進めることが重要です。沖縄県としても多様な意見を取り入れながら、現場の声に即した労働政策を構築するための提案をしていきたいと思います。
皆様からのご意見をお寄せいただければ幸いです。
参考URL
- 総務省「平成30年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nc141110.html - Michael A. Osborne & Carl Benedikt Frey “The Future of Employment”
https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf - 野村総合研究所 × オックスフォード大学 共同研究(日本版)
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2015/cc/0803_1 - NIKKEI The STYLE(2015年)「10年後になくなる仕事、残る仕事」
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO89469010R00C15A8000000 - NIKKEI The STYLE(2025年)「米国で『ブルーカラービリオネア』現象」
https://style.nikkei.com/article/DGKKZO87000010S5A101C2KNTP00 - Harvard DCE「AI Will Shape the Future of Marketing」
https://professional.dce.harvard.edu/blog/ai-will-shape-the-future-of-marketing/ - WebFX「Will AI Replace Marketing Jobs?」
https://www.webfx.com/blog/ai/will-ai-replace-marketing-jobs/ - 共同通信(Yahooニュース)「自動車整備士、志願者が過去最低」
https://news.yahoo.co.jp/articles/d890c766741bfb064f3511f05d1982f69c4c50a9
“あなたの仕事はAIに取られることはありません。AIの使い方を知っている人が取ります。”
— クリスティーナ・インゲ
