離島の振興なくして沖縄の発展なし

「離島の振興なくして沖縄の発展なし」という言葉は、沖縄振興を議論する際、沖縄県議会や国会においても繰り返し用いられてきた表現です。しかし、その重みとは裏腹に、沖縄の離島をめぐる政策議論の中で、長年、十分に正面から扱われてこなかった課題があります。それが「輸送費」の問題です。

生活物資、燃料、医薬品、建設資材、さらには農水産物の出荷に至るまで、離島ではあらゆる営みが海上・航空輸送に依存しています。それにもかかわらず、この輸送費は「規模が小さいから仕方がない」「事業者の努力で吸収すべきもの」と整理されてきました。しかし、これは実態を正確に捉えたものではありません。

沖縄の離島、とりわけ国境に位置する離島における輸送費は、経営努力で削減できる一時的なコストではなく、地理条件そのものから生じる恒常的な負担です。船や飛行機以外の代替手段がなく、天候や距離の影響を常に受ける以上、この負担は構造的な不利性として整理する必要があります。

ここで、離島の「所得」の実態にも目を向ける必要があります。沖縄県内の離島は、一部の島を除き、概ね所得水準が低い傾向にあります。統計上、比較的所得が高く見える島もありますが、その多くは、所得の少ない高校生や大学生、高齢者といった層が島内に少ないことによって、平均値が押し上げられている側面があります。実際には、本島や県外に子どもを進学させるため、あるいは医療や就労の都合から、二重、三重の生活を余儀なくされている世帯が少なくありません。

つまり、離島では所得が低いにもかかわらず、支出はむしろ大きくなる構造が存在しています。教育費、交通費、住居費、生活物資の価格差などが重なり、家計への負担は本島以上に重くなります。この状況を放置したまま「自立」や「成長」を語ることは、現実的とは言えません。

本土の多くの県では、こうした条件不利地域に対して離島振興法が適用されています。一方、沖縄県では歴史的経緯を踏まえ、離島振興法ではなく沖縄振興特別措置法が全県に適用されています。この制度の違いが、輸送費問題を見えにくくしてきました。沖縄振興特別措置法は沖縄全体の振興を目的とする包括的な法律であるため、どうしても成長や高度化に政策の重心が置かれ、生活や産業が成立するための最低条件としての輸送費補填が明確に位置付けられてきませんでした。

さらに沖縄には、有人国境離島法が適用される地域があります。与那国町、石垣市、宮古島市がそれに該当します。この法律は、経済合理性ではなく、「国境に人が住み続けること」そのものを国の責務として位置付けている点に大きな特徴があります。しかし、石垣市や宮古島市が市単位で指定されていることなどから、国境離島特有の厳しい条件が見えにくくなり、輸送費補助は単年度のモデル事業にとどまっているのが実情です。

沖縄本島自体は有人国境離島法の対象ではありませんが、県内物流の集積地として離島を支える後方拠点です。本島から国境離島への輸送が滞れば、離島の生活は直ちに成り立たなくなります。出発地ではなく、到達地が国境離島である以上、その輸送は有人性維持に直結するものです。

輸送費問題は、振興や優遇の話ではありません。人が住み続けるための前提条件の話です。所得が低い上に支出が大きいという構造を是正せずして、離島の持続可能性は確保できません。既にある制度をどう整理し、どう使うかが問われています。

離島の振興なくして、沖縄の発展はありません。離島を支えることは、特定地域への配慮ではなく、沖縄全体の持続可能性を支えることなのです。

  • 政策暖簾と政府の財政状態 : 離島航路政策の政策効果の検討
    • URL: https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00234698-20180400-0047
    • 著者:金子 邦博(慶應義塾大学出版会、2018年)
    • 内容:行政改革が財政改善に結びつかない理由を、離島航路事業の政策効果(政策暖簾)の観点から検討しています。
  • 地域建設産業のあり方に関する調査研究タスクフォース(沖縄県) 報告書(令和6年3月)
    • 発行元URL: http://www.ciic.or.jp/ (一般財団法人 建設業情報管理センター)
    • 内容:沖縄県内における建設業の現状や課題、若手人材の入職状況、就業環境の改善などについての調査報告です。
  • 令和4年度 包括外部監査結果報告書(報告に添えて提出する意見書)テーマ 長崎県の離島・半島振興に関する事務の執行について
    • 監査人:有馬 理(長崎県包括外部監査人)
    • 内容:長崎県の離島・半島振興事業における合規性、経済性、効率性、有効性の視点からの監査結果と指摘事項をまとめています。
  • 令和5年度沖縄振興推進調査(県産品の価値を最大化する物流及び商流の実態調査(在り方検討))報告書 ~概要版~(令和6年3月)
    • 発行元:一般財団法人 南西地域産業活性化センター
    • 内容:沖縄の物流コストや片荷輸送の構造的課題、域外競争力を高めるための戦略的提言が含まれています。
  • 平成26年 (2014年) 久米島町議会会議録
    • 発行元:久米島町議会
    • 内容:鳥島射爆撃場の返還問題、航空運賃の低減、幼稚園の統廃合、学生寮の建設など、町政の重要課題に関する審議記録です。
  • 有人国境離島政策の推進について(内閣府総合海洋政策推進事務局)
    • 内容:有人国境離島法に基づく特定有人国境離島地域の維持、運賃低廉化事業、雇用機会拡充事業などの施策概要と成果について説明しています。
  • 沖縄における物流と社会資本について(平成28年3月)
    • 発行元:沖縄総合事務局開発建設部、沖縄県土木建築部、那覇港管理組合
    • 内容:沖縄国際物流戦略チームによる提言、那覇空港第2滑走路整備、那覇港総合物流センターの整備概要などを紹介しています。
  • 沖縄振興・公共交通ネットワーク特別委員会記録 <第2号>(令和7年10月)
    • 発行元:沖縄県議会
    • 内容:離島・過疎地域振興、生活コスト負担軽減、都市モノレール網の拡充整備、鉄軌道導入などに関する陳情審査の記録です。
  • 資料3:国土交通省 第17回国土審議会離島振興対策分科会配布資料(抜粋)/ 沖縄振興特別措置法のポイント
    • 内容:離島振興法や有人国境離島法における沖縄の適用状況や、沖縄振興特別措置法による産業振興の新規・拡充事項を整理しています。
  • 農林水産物条件不利性解消事業(北部・離島地域振興対策) 北部・離島市町村の手引き
    • 発行元:沖縄県農林水産部 流通加工推進課
    • 内容:北部・離島地域の農林水産物の出荷コスト負担軽減を目的とした補助事業の申請・報告手続に関する実務ガイドです。

その他

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