「ちんすこう」の名は県外ものに?!〜知的財産について
近年、日本由来の商品名やブランドが、国内外で第三者に商標登録されてしまう事例が相次いでいます。中国における日本酒の商標登録問題は、その象徴的な例です。日本国内で正当に使われ、評価されてきた名称であっても、海外では自由に使えなくなる場合があるという現実を、多くの事業者に突きつけています。

中国をはじめ、多くの国では商標制度として「先願主義」が採用されています。これは、誰が先に使っていたかよりも、誰が先に出願したかを重視する仕組みです。そのため、日本で長年親しまれてきた商品名であっても、海外で第三者が先に出願すれば、本来の事業者がその名称を使えなくなることがあります。無効審判などの制度は用意されていますが、現地の法律に基づく手続きが必要となり、時間や費用の負担は大きく、中小事業者にとっては容易な対応ではありません。
そして、この問題は決して海外だけの話ではありません。沖縄においても、商標をめぐる課題は過去から現在に至るまで、繰り返し起きています。復帰直後には、「ちんすこう」をめぐり、県外事業者による商標出願が問題となりました。最終的には一般名称と判断され、誰でも使用できる名称となりましたが、判断が異なっていれば、「ちんすこう」という名称が沖縄県民の手を離れていた可能性もありました。あわや、沖縄の文化や産業を象徴する言葉が、沖縄で自由に使えなくなるところだったのです。
同様に、「さんぴん茶」についても商標問題が起こりました。県民にとっては日常的な呼び名であり、生活の中に溶け込んだ存在ですが、商標制度上は自動的に保護されるわけではありません。一般的な名称であるがゆえに、国内外で第三者による権利取得が起きやすいという弱さを抱えています。親しまれていることと、法的に守られていることは、必ずしも一致しないという現実があります。
さらに近年では、県内においても商標をめぐる混乱が報じられています。沖縄のハンバーガーショップとして長年親しまれてきた「JEF」の名称や、沖縄の食文化と深く結びついているポークランチョンミートの「チューリップ」、そして老舗タコス店である「キングタコス」について、商標登録を巡る問題が表面化しました。いずれも県民にとってはごく自然に使われてきた名称であり、「他の誰かの権利になる」という意識を持ちにくかった言葉です。

しかし、商標制度においては、どれほど地域に根付いているか、どれほど多くの人に愛されているかと、権利の所在は別に扱われます。その結果、知らないうちに使用が制限される、あるいは権利関係を巡る交渉や調整を迫られる可能性があることが明らかになりました。
これらの事例に共通しているのは、悪意の有無というよりも、制度への理解と事前の備えが十分でなかった点です。個々の事業者の注意や努力だけに委ねるには限界があり、地域全体としての対応が求められています。
沖縄県として重要なのは、問題が起きてから対処するのではなく、事前にリスクを減らす仕組みを整えることです。海外展開や県外展開を考える事業者に対して、商標制度の基本や先願主義の考え方、国内商標と海外商標の違いを分かりやすく伝えることは、その第一歩になります。
あわせて、弁理士や関係機関と連携した相談体制を整え、商標調査や出願について気軽に相談できる環境を用意することも重要です。知的財産を一部の大企業だけの問題とせず、地域産業の基礎を支える経営課題として位置づけ直す必要があります。
また、「ちんすこう」や「さんぴん茶」のような一般名称については、名称そのものに依存するのではなく、ロゴやデザイン、沖縄らしさを示す表示と組み合わせたブランド管理を進めることが現実的です。完全な独占は難しくても、正当な出自を示す仕組みを整えることで、不当な利用を抑える効果は期待できます。
知的財産権の問題は、単なる法律の話ではありません。地域の文化や産業の価値を、次の世代にどう引き継ぐかという課題でもあります。沖縄の産品や店名、文化に根ざした名称が、意図せず他者の権利によって制約されることのないよう、県として静かに、しかし着実に支援を積み重ねていくことが、これからの地域振興において重要になります。
【参考】
・特許庁「商標制度の概要」https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo.html
・日本貿易振興機構(JETRO)「海外での商標保護」https://www.jetro.go.jp/world/qa/04.html
・特許庁「海外展開知財支援」https://www.jpo.go.jp/support/chusho/kaigai.html
・NewsDig(TBS)商標登録を巡る県内報道https://newsdig.tbs.co.jp
・沖縄タイムス「ちんすこう」を沖縄で名乗れなくなる…47年前の危機を救った弁理士 復帰後に広がった知的財産を守る意識https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/957644
・商標登録ドットコム「請求人の祖先(琉球王朝時代の新垣椒規)により創造された菓子である「ちんすこう」が、菓子について慣用されている商標であるとされた事例」https://shohyo-toroku.com/refusal/archives/122.html
・同志社大学 川満直樹氏 第 10 研究「沖縄の郷土菓子「ちんすこう」の商標登録問題」についてhttps://jinbun.doshisha.ac.jp/files/jimbn/page/2024jointreport10_1.pdf
