沖縄県・那覇市、教育委員会のメンタルヘルス対策への提言

沖縄県の教職員のメンタルヘルス問題は、単なる人員不足や業務負担の増加という次元を超えた、教育制度そのものの持続可能性に関わる深刻な課題となっている。最新の文部科学省の調査によれば、沖縄県内の教職員の精神疾患による休職者数は268人、在職者比率1.69%という高率を記録しており、全国平均を大きく上回る状況が続いていることが明らかになっています。しかもこの数値は過去数年間で一貫して増加傾向にあり、教職員の心身の健康維持が緊急の課題であることを示しています。
この背景には、教職員の長時間労働、過重な業務、対人関係ストレスが存在する。全国的なデータでも、教員が多くの時間を授業外業務や事務作業、保護者対応に費やしており、それが精神的負荷の増大につながっている実態が示されています。仕事量の多さや指導責任への重圧は、国内だけでなく国際的にも教師のストレス要因として広く認識されています。
文部科学省はこの問題に対応するため、「公立学校教職員のメンタルヘルス対策調査研究事業」を実施し、令和6年度に報告書を公表しています。そこでは、教職員のメンタルヘルス不調による休職者は近年増加しており、若手教員や在職2年未満の教員に休職者が多い傾向が示されています。また、産業医、保健師、心理職などの専門職を組み合わせて対応する事例がモデル的に紹介されており、この点は、単純に保健師だけを配置すれば十分であるという見方を超え、組織全体で多角的な専門支援を構築する必要性を明確に示しています。
一方で、沖縄県における調査事業については、那覇市教育委員会が受託して実施したという経緯がある。三年間の調査を通して一定のデータとノウハウが蓄積されたとの認識が那覇市側にもあるようです。しかし、現在の那覇市教育委員会は、調査事業を終了させた後のメンタルヘルス対策を「保健師の確保」に振り替える構想を進めようとしていると聞いています。保健師の確保により、メンタルヘルス以外の健康課題にも対応が可能になるというのがその理由という話です。
しかし、この那覇市教育委員会の構想は、一見合理的に見えるかもしれませんが、メンタルヘルス対策は単に健康面のフォローを行うだけでは不十分です。教職員のメンタル不調は、個々の心理的課題だけでなく、教育現場特有の職務環境、組織内コミュニケーション、保護者対応、評価制度、法的・制度的な要因が複合して影響しています。保健師は一般的な健康管理や個別対応を支援する役割として重要ですが、教育現場に特有のメンタルヘルス課題に深く踏み込むためには、精神保健に特化した保健師と、外部の産業医や心理職との協力体制が必須と言われています。これらを単一職種の保健師だけで担保しようとするアプローチは、課題の根本解決にはつながりません。
さらに、法的支援の視点も欠かすことはできず、保護者対応や指導上のトラブル、教育委員会や学校管理職との関係性、服務上の問題が精神的負荷を増大させる一因となっていることは、全国的な調査でも示唆されています。こうしたケースでは、医療的支援や保健指導だけでなく、法的な論点整理や組織防衛、権利保護の仕組みが必要になると私は考えています。それにもかかわらず、那覇市教育委員会の構想には、法的支援機能を組み込んだ包括的な体制設計が見られないと言えるのではないでしょうか。
私が沖縄県議会で求めてきたのは、教育委員会内に法務担当(インハウスロイヤー)を配置することです。インハウスロイヤーは、教育委員会や学校の内部に常駐し、教育現場特有の法的論点に迅速かつ専門的に対応する役割を担います。例えば、教職員が保護者や第三者から不当な要求やトラブルに直面した際、その法的整理を進めること、服務規程や内部ガイドラインの法令適合性を確保すること、労働法や教育関連法令の適切な解釈と適用を支援することなどです。これにより、教職員の不安や誤解を未然に解消し、長期的なトラブルを回避する道筋を作ることができると想定しています。実際に他の都道府県や市町村で市役所内にインハウスロイヤーを複数名配置しているところもありますが、議会では「顧問弁護士の活用をする」旨の答弁でお茶を濁している感じを受けます。
また、インハウスロイヤーが関与することで、教育委員会としての方針決定過程も法的に堅牢なものになります。教職員のメンタルヘルス支援策が、正当な権利を保障しながら効果的に機能するためには、健康面と法的面の統合的な支援体制が不可欠ではないでしょうか。この点は、保健師や産業医、心理職だけでは補完できません。特に、精神的な不調が労働条件や人権と絡む問題に発展した場合、専門的な法的支援が存在しないと、教職員個人が孤立し、結果として離職や休職に追い込まれるリスクが高まってきます。
日本全体の教職員の状況を見ると、精神疾患による休職者数が過去最高を記録しているという報告も出ています。これは、教職員のストレス要因が教育制度の構造そのものに根差す問題であり、単一の職種や施策で解決できるものではないことを物語っているのです。沖縄県の教職員がメンタルヘルス不調で休職する割合が全国ワーストである現状は、包括的で専門性の高い支援体制を構築することの必要性を改めて示しています。
”教育現場の持続可能性を確保するためには、教職員一人ひとりの健康を守るだけでなく、教育制度全体の安全網を強化する必要がある。だからこそ、保健師や産業医、心理職と連携しつつ、法的支援機能を教育委員会の中核に据えるインハウスロイヤーの配置が不可欠である”このような多角的な専門支援体制こそが、教職員の安心と教育の質を高め、沖縄の教育現場を持続可能なものとする根本的な解決策ではないかと思います。
参考資料
文部科学省資料
- 令和6年度 公立学校教員のメンタルヘルス対策調査研究事業報告書
URL: https://www.mext.go.jp/content/20250620-mxt_syoto01-000036019_1.pdf (198ページ以下に沖縄県休職者データ等掲載) - 令和6年度 公立学校教員のメンタルヘルス対策調査研究事業(モデル自治体のポイント等)
URL: https://www.mext.go.jp/content/20250620-mxt_syoto01-000036019_5.pdf (産業医・保健師・心理職連携の事例)
報道・第三者情報
- 沖縄県内教員の精神疾患による休職者の状況(琉球新報他)
URL: https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1740985 (沖縄県が全国ワーストの休職率である報道) - 全国の教員における精神疾患休職者の傾向(琉球新報)
URL: https://ryukyushimpo.jp/news/national/entry-4894311.html (全国平均と比較した沖縄の状況)
