沖縄が世界の架け橋となるために!航空関連産業クラスターとは

現在、那覇空港内の滑走路脇にある格納庫を利用した“MRO”とは、航空機の「整備、修理、点検(メンテナンス、リペア、オーバーホール)」をまとめた呼び方で、航空会社が安全運航を続けるために欠かすことができない基盤産業です。航空機の機体や部品を点検し、必要な修理を行い、長期間使えるように保守する役割を担います。航空便の増加に比例して整備需要も高まるため、世界的に安定した市場が形成されています。(写真は沖縄県HPより)

沖縄でこのMROを育てる構想は、那覇空港の地理的優位性と、アジア地域で拡大する航空需要を背景に始まりました。沖縄は日本とアジア主要都市との中間に位置し、各都市へ3〜4時間で到達できます。この立地は航空路線の中継点としてだけでなく、整備産業の立地としても適しており、航空機が集まりやすい環境をつくります。整備を行う場所と航空路線が結びついていることは、余分な輸送を省き、航空会社にとって利便性を高める大きな要因となります。

那覇空港は滑走路増設によって発着容量が増え、国も国際拠点空港としての将来像を描いています。MROはこの流れの中で、観光への依存度が高い沖縄経済を補う新たな基幹産業として位置づけられています。整備業務は多くの人材を必要とし、景気変動の影響も比較的受けにくいため、長期的な雇用創出が期待されています。

こうした取り組みの成果について、令和5年度の「航空関連産業クラスター形成 加速会議 提言書」は重要な指標を示しています。第一格納庫を活用した航空機整備施設は2019年の供用開始から4年間で、入居企業の売上約117億円、経済波及効果約325億円を生み出したと推計されています。整備費約188億円に対してすでに乗数効果が1を超えており、県税収増も約35億円とされ、公共投資が地域経済に確実に貢献していることが確認されています。これは、MROが「観光に次ぐ第二の柱」として成立し得る産業であることを裏付ける材料となっています。

県はこれまで民間事業者と協力し、格納庫建設や教育訓練施設の整備を進めてきました。ただし、材料費や人件費の高騰、沖縄振興予算の縮減などにより、計画の拡大には新たな財源確保が大きな課題となっています。今後は民間主導の枠組みづくり、国との協力体制、財源の多様化などを組み合わせることが重要になります。

一方、アジア全体では航空機の整備需要が急速に拡大しています。航空機数の増加に加え、新興国の航空会社が増えているため、整備を担う拠点の需要が伸びています。日本国内の整備枠には限りがあるため、沖縄が新規に参入する余地は残されていますが、競争環境は厳しく、シンガポール、マレーシア、フィリピンなど既に実績のある拠点との差別化が必要です。

その中で沖縄の強みは、日本基準での整備による高い安全性、地理的な利便性、公的機関の航空需要が一定量見込める点などです。日本基準の整備は信頼性が高く、アジアから見て安心材料となります。また、沖縄は乗務員交代や訓練を兼ねる利用にも適しており、航空会社にとって運航効率を高める条件が整っています。さらに、自衛隊や海上保安庁など公的機関の機体整備需要も一定のボリュームがあり、産業の安定性に寄与します。

課題は、人材育成と作業量の確保です。整備士は資格取得まで長い訓練期間が必要で、沖縄では理工系の人材が十分でないため、安定供給が難しい面があります。高校・専門学校との連携強化、海外人材の受け入れ支援、資格取得に向けた補助など、多面的な取り組みが求められます。また、分散した事業者が個別に事業を行うより、民間主導で統合された整備拠点づくりを進める方が効率的であり、長期的な競争力の確保につながります。

MROの発展は空港の将来構想、そして県経済界が提案しているGateWay2050 Projectsとも密接に関わります。那覇空港から普天間飛行場にかけての米軍基地返還予定地周辺に至る広域的な将来像、航空需要の見通し、人材政策、産業用地配置などを一体的に整理した長期ビジョンを県が提示し、その上で民間と国を巻き込む体制を構築することが不可欠です。

さらに、航空機整備から派生する関連産業の可能性も広がっています。装備品やエンジン整備、部品の保管や配送、製造、技術コンサルティング、研究開発、人材育成など、裾野の広い産業群を形成する可能性があります。沖縄のMROは条件が整えば将来の産業の柱となり得ますが、そのためには財源、人材、長期ビジョンの三点を確実にそろえる必要があります。

現在、沖縄県は第2ステージとして、二つ目の格納庫の整備を構想しており、計画は着実に進行しています。来年度(令和8年度)には基本設計を実施する予定で、その後おおむね3年で建設が行われる見通しです。MRO拠点の拡充に向けた具体的な一歩を踏み出す段階にあり、第二ステージ、第三ステージへと進むことで、沖縄が世界の航空ネットワークの結節点となる可能性が高まります。私も県議会の立場から、産業として確立するための支援を続けていきたいと考えています。

参考ウェブサイト
沖縄県「航空機整備産業(MRO)について」
https://www.pref.okinawa.jp/site/shoko/keizai/mro.html

経済産業省「航空機産業の現状」
https://www.meti.go.jp/policy/aeronautic/

那覇空港プロジェクト(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000280.html

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