新生児マススクリーニング検査とは

新生児マススクリーニング検査は、生まれて間もない赤ちゃんを対象に、先天的な代謝異常やホルモン異常などを早期に発見し、適切な治療を行うことで重篤な障害や生命へのリスクを回避し、健康な成長を支援する公衆衛生上極めて重要な医療サービスです。

日本では1967年にフェニルケトン尿症(PKU)を対象とするスクリーニングが導入され、以降、対象疾患は段階的に拡充されてきました。現在では、全国的に20種類以上の疾患がスクリーニングの対象とされており、各都道府県で体制が整備されています。

特に沖縄県は、国の実証事業や琉球大学医学部、沖縄県医師会などの連携により、全国でも先進的な取り組みを進めています。現在は、全国標準の20疾患に加えて、脊髄性筋萎縮症(SMA)など9疾患を含む計29疾患を対象とした拡大スクリーニングを実施しています。2024年2月には無症状のSMA患者が検出され、発症前の遺伝子治療が行われるという画期的な成果も報告されています。

検査の方法と流れ 検査は、赤ちゃんが出生してから生後4〜6日以内に実施されます。この時期に検査することで、母体からの影響を最小限に抑え、新生児自身の代謝機能を正確に評価できます。

  1. 検体採取 赤ちゃんのかかとの皮膚を軽く刺して数滴の血液を採取し、専用の濾紙(ガスろ紙)に染み込ませます。これは「ろ紙血」と呼ばれます。

  2. 検体の送付と分析 採取された濾紙は、都道府県が指定するスクリーニングセンターへ送られ、タンデム質量分析計などの高度な機器で複数の疾患について一括検査されます。

  3. 結果通知 異常がなければ特に通知されませんが、何らかの異常値が見られた場合には、再検査や精密検査を行うために保護者に通知されます。なお、「要再検査」の判定は、病気の確定を意味するものではなく、あくまで一時的な代謝変動や検査誤差の可能性もあるため、冷静な対応が求められます。

スクリーニングで早期発見が可能な主な疾患は以下のものがあります。

  • 先天性代謝異常症(フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症など)代謝経路に必要な酵素が欠如しており、特定の物質が体内に蓄積して中枢神経系に障害を与える疾患群。

  • 先天性内分泌異常症(先天性甲状腺機能低下症、副腎過形成症など)ホルモン分泌異常により、発育や生命維持に重大な影響を与える疾患。

  • 有機酸代謝異常症・脂肪酸代謝異常症(メチルマロン酸血症、CPT欠損症など)エネルギー生成過程に関わる異常で、感染症などを契機に急激な症状悪化を招く可能性がある。

  • 沖縄県で追加された疾患 脊髄性筋萎縮症(SMA)や、他の稀少疾患など。SMAは筋力低下や呼吸不全を引き起こすが、早期の遺伝子治療により運動機能の改善が期待されるようになった。

新生児期にこれらの疾患を発見する最大の利点は、「発症前に治療を開始できる」ことです。たとえば、

フェニルケトン尿症(PKU):適切な食事制限により、知的障害の発症を防止。

先天性甲状腺機能低下症:ホルモン補充療法で正常な発達が可能。

SMA:発症前に遺伝子治療を行えば、運動機能の維持が期待できる。

これらの治療はいずれも疾患の重症化や障害の固定化を防ぐ上で非常に有効であり、社会全体の医療・福祉コストの抑制にもつながりますが、次のような課題も取り沙汰されています。

対象疾患の拡大と偽陽性の問題 検査技術の進歩により、対象とする疾患の数が増える一方で、偽陽性(実際には異常がないのに陽性と判定されるケース)も増える傾向にあります。これにより保護者の不安が高まり、医療機関の負担も増す懸念があります。

地域格差と費用負担 日本では新生児スクリーニングは原則として公費で行われていますが、拡大スクリーニングに伴う費用や追加検査・治療の負担については地域差が生じています。また、専門医や検査機関の人材・設備の整備も地域によってばらつきがあります。

遺伝情報の取り扱いと倫理的配慮 遺伝子レベルのスクリーニングが可能になる中で、遺伝情報の取り扱いや保護者への情報提供の在り方、同意の取り方など、法的・倫理的課題も増しています。個人情報保護との両立が求められます。

とは言え、新生児マススクリーニング検査は、科学と医療の進歩を背景に、その重要性が一層高まっています。赤ちゃんの未来を守るための最初のステップとして、すべての新生児が公平に、適切なスクリーニングとフォローアップを受けられる体制づくりが今後ますます求められます。沖縄県のような先進的取り組みは、全国への波及効果を持つモデルケースとも言えるのではないかと思います。

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