学校教員は残業代が出ないの?―給特法改正と現実的提案

「先生って、残業代もらえないんですよね?」

そんな声が、ようやく社会でも聞かれるようになってきました。朝は早く、夜は会議や部活、休日も行事で出勤。教員は長時間働いているのに、なぜ残業代が出ないのか? それを制度的に支えてきたのが、1971年に施行された「給特法(正式名称:義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)」です。

この法律は、教員の業務は多岐にわたり、時間管理が難しいとして、時間外勤務手当(残業代)の代わりに「教職調整額」として月給の4%を一律に支給する仕組みを取っています。しかし今や、教員の仕事は授業だけにとどまらず、いじめ対応、特別支援、ICT、保護者対応、地域連携まで、際限なく拡大しています。

そんな中、2026年4月から施行される改正給特法(文科省サイト)では、教員の働き方をめぐる環境改善に向けたいくつかの新たな取り組みが盛り込まれました。

まず注目されているのは、「教職調整額の引き上げ」です。2026年1月から段階的に増額し、2031年には最大で月給の10%にまで引き上げられる予定です。また、校内体制の強化として、「主務教諭」の制度が創設され、管理職と教諭の中間的な立場で校務分担や指導体制を支える役割が制度化されます。

さらに今回の改正の柱のひとつが、「業務量の管理」と「健康の確保」の制度化です。地方自治体には、「業務量管理・健康確保措置実施計画」の策定と公表が義務付けられました。勤務時間の適正化、勤務間インターバルの確保、健康診断後のフォローアップなどが計画に含まれます。

しかしこの制度の実施にあたっては、大きな課題が浮かび上がっています。

この計画の策定義務は「学校設置者(市町村)」と「教育委員会」の双方にまたがっています。小規模な町村では、教職員の健康管理に対応するマンパワーもなく、予算も極めて限られているのが実情です。

たとえば、産業医・保健師の確保や面談の実施、勤務時間の実態把握といった一連の業務を、少人数の教育委員会事務局だけで担うのは現実的ではありません。また、法改正で新たに義務が生じるにもかかわらず、これに対する明確な財政支援措置は講じられていません。つまり、“やれと言われても、やれない”というのが多くの自治体の本音なのです。

こうした現場の苦悩を受け、教育長に対して、具体的な提案を行いました。それは、教育事務所単位で「健康管理室」を設置し、そこで教職員の健康管理を一括して担う仕組みを整備することです。たとえば、圏域ごとに保健師などの専門職を配置し、勤務実態や健康状態のチェック、ストレス面談などを担当するようにします。

その運営にかかる費用は、各市町村で分担方式をとることで、小規模自治体の負担を最小限に抑えることができます。共同運営による広域的な仕組みは、コスト効率だけでなく、専門性や継続性の確保にもつながります。

このような仕組みを国が制度設計の中で後押しすることで、改正給特法の理念が“絵に描いた餅”ではなく、現場で実効性をもつ施策となり得るはずです。そのきっかけとなる沖縄モデルを令和7年9月議会で提案する予定です。

給特法の改正は、教員の長時間労働と低待遇の是正に向けた貴重な第一歩です。ですが、その実施を担う地方自治体、とりわけ町村部においては、人材・財源の両面で厳しい現実があります。「制度がある」だけでは足りず、「どうやって現場で動かすか」を考える視点が今、何より求められています。

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