ガソリン税暫定税率と沖縄のこれから
今回の参議院議員選挙では「減税合戦」と言っても過言ではないと思いましたが、消費税に合わせて、「ガソリン税の暫定税率」というキーワードが目立って出ていました。
その参議院選挙の議席が定まり、8月1日に招集された臨時国会では立憲民主、日本維新の会、国民民主、参政、共産、日本保守、社民の野党7党が11月1日から廃止する法案を衆院に提出しましたので、与野党は秋の臨時国会での成立を目指し、各党の実務者による協議を進めることになります。
ガソリン税は、国税の「揮発油税」と地方税の「地方揮発油税」から成り、両者を合わせた本則税率は1リットルあたり28.7円です。1974年、第一次オイルショック後の道路整備財源不足を補うため、「当分の間の税率引上げ」として25.1円上乗せする暫定措置が導入されました。これがいわゆる暫定税率で、本則と合わせて53.8円という高い税負担が半世紀近く続いてきました。
暫定税率は一度だけ失効したことがあります。2008年、衆参ねじれ国会の中で期限が切れ、全国でガソリン価格が一時的に約25円下がりました。しかし財源不足を理由に同年5月には復活。
その翌年、2009年、民主党は総選挙でガソリン税の暫定税率廃止を公約し、政権を獲得しました。半世紀近く続く「当分の間」の税率に国民は辟易しており、廃止は生活負担軽減の象徴となりました。まるで、今回の参議院議員選挙時のようです。
しかし政権発足直後、リーマンショック後の景気低迷で税収は急減しました。当時、暫定税率を外せば国と地方で約2.5兆円の税収減となり、道路整備のみならず福祉や教育にも影響が及ぶと自治体が猛反発。さらに子ども手当や高校授業料無償化など大型施策の財源確保が優先され、あると言われていた「埋蔵金」頼みの財源策は限界となってしまいました。結局、民主党は暫定税率を「当分の間税率」と名前を変えて存続させ、一般財源化によって使途を広げた。理想と現実の落差が浮き彫りとなった一件と言えます。
当時の時系列として、年月、主な動き、政治判断、与野党の動き、自治体の反応など
2009年8月 民主党総選挙勝利 暫定税率廃止をマニフェストに明記 与党化した民主党が公約実行を表明 廃止歓迎の声、一方で財源不安も
2009年9月 鳩山内閣発足 公約順守の方針を確認 野党自民は財源不足を批判 道路予算減少への懸念表明
2009年10〜11月 税収見通し下方修正 廃止による年2.5兆円減を試算 与党内からも財源懸念の声 全国知事会などが継続要望
2009年12月 税制改正大綱決定 廃止方針を撤回、存続へ転換 自民は方針転換を追及 「公共事業縮小回避」と一定評価
2010年4月 法改正成立 「当分の間税率」と名称変更、一般財源化 与野党とも制度維持を容認 用途自由化に伴い予算編成柔軟化
この時の民主党政権下で道路整備専用だった「道路特定財源」を廃止し、ガソリン税を含む揮発油関連税は一般財源化されました。これにより暫定分も含め、税収は道路だけでなく社会保障や教育、防衛など幅広い分野に使えるようになりました。地方揮発油税も国が徴収後に都道府県へ譲与され、こちらも用途は自由です。
沖縄には特別措置があります。復帰以来、国の軽減措置によりガソリン税が7円/L引き下げられ、全国で唯一の恒常的な優遇です。ただし県は独自に「石油価格調整税」1.5円/Lを課し、この収入を離島向け燃料輸送補助に充てています。結果として、本土より実質5.5円安い価格構造になっています。(沖縄タイムス社説 [社説]ガソリン減税と沖縄 不利性直視した議論を)
では暫定税率を廃止したらどうなるでしょうか。全国的に25.1円/L価格が下がりますが、沖縄の5.5円優遇幅は制度を維持する限り変わりません。県全体のガソリン消費量は年間約6.48億Lであり、廃止による県内全体の負担減は年間約162億円にのぼります。家庭だけで見ても、自家用車を2台保有し、それぞれ年1万キロ走る世帯なら、燃費10〜14km/Lの場合で年3.6〜5万円程度の軽減効果がありますので、それは各家庭の負担減となりますので、嬉しいかもしれません。
ただし、ここには注意が必要です。現在の7円軽減は2027年5月まで延長が決まっていますが、暫定税率を廃止した後も自動的に維持される保証はありません。もし軽減措置が外れれば、本土との差は消え、県の石油価格調整税1.5円分だけ逆に重くなる可能性もあります。最近の国会では、野党が廃止と同時に沖縄の優遇維持を盛り込む法案を提出しましたが、実現には法改正と政令整備が必要です。
暫定税率はそもそも「一時的」な措置として始まりましたが、政治的な事情や財源確保の必要から長く続いてきました。その廃止は家計や企業に直接的な負担軽減をもたらしますが、一方で国・地方の歳入は減ります。特に沖縄の場合、優遇措置の行方によっては負担軽減幅が変わるため、単純な値下げ効果だけで語れない面があります。
税の仕組みは生活の中で意識しにくいものですが、道路、福祉、防衛といった身近な公共サービスの財源と直結しています。暫定税率廃止をめぐる議論は、単なるガソリン価格の話ではなく、国と地方の財政構造、地域間の公平性、そして私たちの生活そのものに関わるテーマです。なお、今回の法案では「軽油」は含まれておらず、物流費に関しての軽減はなく、争点の1つとなっていた物価高対策に対して効果的なものとならないのでは?という声も出ています。沖縄の特例がどう扱われるかも含め、今後の国会審議を注視する必要があります。

ガソリン無くては、選挙カーも走らせることができませんので・・・
