デフリンピック100年─共生社会と政策のヒント
2025年11月、東京を中心に「デフリンピック(Deaflympics)」が開催されます。
聴覚障害のある人々の国際スポーツ大会で、1924年のパリ大会に始まり、今年でちょうど100年。日本では初めての開催となる記念すべき大会です。
「デフリンピックって何?」と耳にする方も多いかもしれません。オリンピックやパラリンピックは有名ですが、デフリンピックはまだ一般的な認知度が高いとは言えません。しかし実際には、障害理解を深め、社会のあり方を考えるうえでとても大切な意味を持つ大会なのです。
デフリンピックとは
デフリンピックは聴覚障害を持つアスリートのための国際大会で、国際オリンピック委員会(IOC)が公認しています。競技中には音を使わず、陸上ではピストルの音ではなく光の合図、水泳ではフラッシュや振動を使うなど、聴覚に頼らずフェアに競技ができるよう工夫されています。
種目は陸上、水泳、バレーボール、バスケットボール、柔道など多岐にわたり、世界中から約3千人の選手が集まります。今回は日本選手団が過去最多の273人という大規模な体制で臨み、メダル数の目標を「31個以上」と掲げています。競技は11月15日から26日まで行われ、観戦は無料です。
沖縄県出身の代表選手たち
今回の代表には、沖縄県出身の選手たちも選ばれています。琉球新報「真謝、豊里、金城、宮城 デフリンピック代表 11月、東京で開催」
男子バレーボールでは、力強いスパイクとチームを引っ張る存在感で注目される 真謝茂伸(まじゃ・しげのぶ)選手 が出場します。女子バスケットボールでは、スピードと冷静な判断で攻守にわたり活躍する 豊里凜(とよさと・りん)選手 が選ばれました。さらに、正確なコントロールで勝負する 金城祥子(きんじょう・しょうこ)選手 がボウリングに挑みます。そして、粘り強さと俊敏な動きが武器の 宮城実来(みやぎ・みく)選手 が女子サッカー代表として世界に挑みます。
彼らはそれぞれ、沖縄で培った力を胸に日本代表として大舞台に立ちます。その姿は「聴覚に障害があっても夢を持ち、努力すれば世界に挑戦できる」という大きなメッセージを地域の子どもたちや多くの県民に届けてくれるでしょう。
加齢と「誰もが経験するかもしれない障害」
日経新聞の記事では、人工内耳を使う池田優里さん(28)の言葉が紹介されていました。
「聴覚障害があるからこそ可能性は無限だ」
彼女は、相手の表情や空気感を敏感に読み取る力や、困難を乗り越えてきた粘り強さなど、障害を通じて得られた強みを語っています。これは、障害を「できないこと」だけでなく「育まれる力」として捉える新しい視点です。
そして忘れてはならないのは、障害は「特別な人だけのもの」ではないということです。私たちは年齢を重ねるにつれ、聴力や視力、体力や記憶力が少しずつ衰えていきます。補聴器や眼鏡を必要とすることも増えていきます。つまり、障害に似た状況は誰もが経験する可能性があるのです。
普遍的な社会インフラとしての整備
そう考えると、障害に対応した施策は「特別支援」ではなく、誰もが安心して暮らすための 社会インフラ として整備されるべきです。
例えば、
• 公共施設や商業施設における字幕表示や手話通訳の標準化
• 音だけに頼らない光や振動による案内システムの導入
• 学校での障害理解教育や体験プログラムの普及
• 地域イベントや商業施設での障害理解啓発活動の継続
• 高齢者政策と障害者政策を統合し、共通課題として扱う仕組みづくり
これらは「障害者のための特別な施策」ではなく、社会全体にとっての基盤整備といえます。
沖縄からできること
沖縄ではすでに、障害者スポーツ協会や県の補助事業を通じて、バリアフリー整備やスポーツ活動の推進が進んでいます。しかし、まだ「特別な取り組み」にとどまっている面があります。
これからは、代表選手の活躍を地域全体で応援するだけでなく、
• 市町村単位での支援条例の整備
• 公共施設におけるユニバーサルデザインの標準化
• 若い世代への教育と啓発の強化
• 高齢者支援との連動による一体的政策
こうした取り組みを進めることで、沖縄は共生社会の先進地として全国に発信できるはずです。
デフリンピック100年、日本初開催。これは歴史的な出来事であり、日本全体が「障害理解」を深めるチャンスです。沖縄から出場する真謝茂伸選手、豊里凜選手、金城祥子選手、宮城実来選手の活躍を心から応援しながら、その挑戦が地域社会の仕組みづくりや政策にもしっかりとつながっていくことを願っています。
障害を特別扱いせず、誰にでも起こりうる「人生の一部」として捉える。
その前提に立ち、普遍的・継続的な社会インフラとして整備を進めること。
これこそが、デフリンピックが私たちに投げかけている大きなメッセージだと思います。
参考サイト
• 日本経済新聞「『デフリンピック』日本で11月開催、聴覚障害への理解深める契機に」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB184TD0Y5A610C2000000/
• 琉球新報「真謝、豊里、金城、宮城 デフリンピック代表 11月、東京で開催」
https://ryukyushimpo.jp/news/sports/entry-4502793.html
• 国際デフリンピック委員会(ICSD)
https://www.deaflympics.com/
• 日本ろう者スポーツ協会 Deaflympics Japan
https://jfd.or.jp/deaflympics
