オリオンビール上場するってよ!

沖縄を代表する地場企業オリオンビールが、2025年9月25日に東京証券取引所プライム市場に上場します。売り出し価格は1株850円で、仮条件の上限で決まりました。需要は強く、売り出し総額は200億円を超える規模となります。沖縄の製造業としては初めての上場であり、県民にとって誇らしい出来事であると同時に、地域経済や暮らしへの影響を冷静に考える契機でもあります。

特措法と酒税軽減の歴史

オリオンビールを語る上で欠かせないのが「酒税軽減制度」です。これは1972年の本土復帰に伴い導入された「復帰特別措置法」に基づく制度で、県産酒類には酒税の軽減が認められました。対象は県内で造られ県内に出荷される酒類に限られ、県外向けは対象外とされました。ビールについては長く20%の軽減が続き、2023年10月から15%に縮小、02026年10月に完全廃止される予定です。

この軽減は、オリオンにとって価格競争力の大きな支えでした。沖縄国税事務所の統計によれば2023年度のビール課税数量は約25,000kLであり、そのうち県内消費分を仮に6割とすると、年間で数億円規模の減税効果があったと推定できます。県民にとっても「オリオンは手軽に飲める身近なビール」というイメージの背景には、この制度があったのです。制度の廃止後は、本土大手と同条件で競争することになり、価格や利益に大きな影響が及ぶことになるかと思います。

ファンドの介入と上場準備

2019年、野村ホールディングスと米カーライル・グループがオリオンを買収しました。総額約570億円での大型取引で、買収目的会社を通じたLBO(レバレッジド・バイアウト)でした。このLBOというのは、今回で言うと、ファンドが自己資金217億円を出資し、残りは借入で賄うスキームです。オリオン自身の利益や資産売却で返済を進め、2024年度末時点で約160億円が残っているとされます。

この買収から上場に向けて、オリオンは不動産売却や効率化を進めたのではないかと思われます。営業利益率は2022年までの1%前後から、2023年以降は10%を超えるまでに改善しています。売上規模は250~290億円程度で横ばいにもかかわらず、利益率が大幅に伸びていますので、コスト削減や値上げ効果に加え、上場を見据えた利益改善の側面があったと考えられます。一方で研究開発費は年間8,100万円にとどまり、売上に対する比率は0.3%程度でした。株主還元は自己株式取得110億円、配当23億円と厚く、投資ファンド期の「株主第一」の姿勢を色濃く映しているように見えます。

大手メーカーとの違いは?

他の大手ビールメーカーを調べてみますと、それぞれの営業利益率は、アサヒやサントリーで8〜9%前後、キリンは5%前後、サッポロは3%台にとどまります。これに対しこの3年間、オリオンは10〜12%と突出しており、規模の小ささにもかかわらず「非常に良い」数字を示しています。ただし、この高さは恒常的な収益力というより、酒税軽減や事業の改善など一時的要因に支えられているとみるべきではないかと思います。今後、軽減廃止と投資負担が重なったときにどこまで維持できるかが真の試金石になるのではないでしょうか。

上場のメリットとリスク

上場についてのメリットは概ね以下の三つに整理できます。
第一に、市場からの資金調達が容易になり、缶製造設備の更新など大規模投資を計画的に進められる点です。
第二に、情報開示が充実し、経営の透明性が高まることです。県内外の利害関係者が経営を議論しやすくなります。
第三に、全国区の舞台で「沖縄発ブランド」としての露出が増え、観光や地域経済への波及が期待できることです。

もちろん、一方でリスクもあります。株主の期待に応えるために配当や、自社株買いが優先されれば、研究開発や人材投資が後回しになる懸念があります。酒税軽減がなくなれば利益の余裕が減り、借入残高の返済も投資の足かせになります。

県民への影響は?

現段階で想定できる県民への影響は何でしょうか?

会社には株主還元偏重、税優遇の廃止、借入負担といったリスクがあります。その結果として、ビール価格の上昇、雇用や発注の抑制、地域イベント支援や協賛の縮小などが県民に波及する可能性があります。今回の全島エイサーと同時に行われたオリオンビアフェスタでは有料席を作ることで、イベントに関わる収支を改善する動きをしたと思われます。

一方で、上場によって県内製造業の存在感は高まります。市場から集めた資金を設備や商品開発に投じることができれば、競争力強化につながり、地域経済に良い循環を生む可能性があります。また、沖縄初の製造業による上場ですので、地域の可能性が高まります。沖縄県にとってもリスクとチャンスが同時に存在すると言えます。

今後はどうなるのか?

今回のIPOは、オリオンが「株主のための会社」から「地域とともに成長する会社」へと転じられるかどうかを占う分岐点になるのではないでしょうか。酒税軽減廃止という逆風を受け、原材料や人件費の高騰にも影響を受ける中、利益率を保つには単純な値上げだけでは不十分です。製造効率や物流改善、クラフトビールやノンアル分野の拡充、観光と連動した商品展開など、多面的な取り組みが必要になると予測されます。

県民にとって、オリオンビールは「地元の誇り・地元のビール」であると同時に、生活や雇用に直結する企業でもあります。これからの沖縄県民にとっても「地元のビールが断然うまい!」と言われるような企業であって欲しいと願います。

参考資料

その他

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