宿泊税(観光目的税)決定! 経緯と状況

沖縄で長く議論されてきた「宿泊税」が、いよいよ形になりました。2025年9月、沖縄県議会は条例を全会一致で可決し、国の同意を経て2026年度中にスタートする予定です。制度は宿泊料の2%を課す“定率制”で、1泊あたりの上限は2,000円。修学旅行など教育目的の宿泊は免除され、年間およそ78億円の税収が見込まれています。この財源は観光危機管理や海の安全対策、二次交通の整備、自然環境や景観の保全、人材育成など、観光の持続可能性に直結する事業に充てられる予定です。

長い導入までの道のり

沖縄で宿泊税の議論が始まったのは2010年前後にさかのぼります。観光客が右肩上がりに増えるなかで、道路や港湾への負荷、自然環境の悪化が顕在化し、「観光で得た収益を観光や地域に還元する仕組みが必要だ」との声が高まりました。2018年には有識者や観光業界を交えた検討委員会が立ち上がり、制度の骨格が提示されましたが、その直後に新型コロナウイルスが直撃。観光需要は急減し、税導入は先送りとなりました。それでも観光が回復してきた2023年以降、議論は再び活発化。県と市町村、観光事業者との調整を経て、15年越しにようやく条例可決へとたどり着きました。長い時間がかかった分だけ、制度設計は慎重に練られています。

普通税か目的税か

導入にあたって大きな論点となったのが、「普通税」とするか「目的税」とするかでした。普通税は一般財源として幅広く使える一方で、「観光客から負担を求めるなら観光にしっかり還元してほしい」という県民や事業者の理解が得にくい面があります。

最終的に沖縄県は法定外目的税として導入を決めました。これにより、税収は観光危機管理や交通整備、環境保全や人材育成といった分野に限定して使われることが条例で明確化されます。あえて目的税を選んだことは重要なポイントです。なお、県と市町村の配分比率は3:2となります。

全国に広がる宿泊税の流れ

宿泊税は全国的に広がりを見せています。日本で最初に導入したのは2002年の東京都で、その後2017年に大阪府、2018年には金沢市と京都市が続きました。

京都では観光客集中による「観光公害」が深刻化したことを背景に宿泊税を導入。宿泊料金に応じて200円~1,000円を課す定額制で運用し、コロナ前には年間約46億円を集めました。さらに京都市は2026年3月から税率区分を見直し、最高額を1泊1万円に引き上げる方針を決定。高級ホテル利用者からより大きな負担を求め、税収を約126億円に拡大する計画です。

また北海道の倶知安町(ニセコ地域)では2019年から宿泊税が導入され、宿泊料の2%に上限2,000円をかける「定率+上限制」を採用しています。ただしこれは町単位での試みであり、都道府県として定率制を導入するのは沖縄が全国で初めてです。

沖縄が定率制を選んだ理由

沖縄が定率制を選んだのには明確な理由があります。定額制は導入時には分かりやすい反面、物価や宿泊料金が上がると負担割合が下がり、税収が伸び悩む欠点があります。京都市が最高税額を1万円に大幅引き上げざるを得なくなったのも、この定額制の限界を補うためでした。

これに対し定率制なら、宿泊料金に応じて自動的に税額が変動します。高額宿泊者からは相応の負担を、低価格帯宿泊者からは軽い負担をお願いでき、公平性を確保できます。さらにインフレや貨幣価値の変動にも自然に対応できるため、改定のたびに条例を見直す必要も少なくなります。持続性という点でも合理的な仕組みなのです。

事業者や県民からの声

もちろん、導入は歓迎一色ではありません。観光事業者からは「宿泊料金が上がれば観光客が敬遠するのではないか」「徴収やシステム改修の事務負担が大きい」といった不安が寄せられています。「集めた税金を観光にきちんと還元してほしい」という要望も強く、二重課税の誤解や導入時期への慎重論も聞かれます。

さらに沖縄特有の論点として、離島住民の声があります。「通院や冠婚葬祭など生活に必要な宿泊まで課税されるのは困る」という意見です。県は修学旅行など教育目的の宿泊は免除しましたが、離島住民の生活宿泊は対象のまま。今後の制度運用で丁寧な配慮が求められるでしょう。

沖縄の宿泊税が問うもの

全国の流れを踏まえると、沖縄の宿泊税は「ようやく追いついた」というより「新しい形に挑戦する一歩」と言えます。定率制という全国初の試みがうまくいけば、ほかの自治体にも波及する可能性があります。

ただし大切なのは、導入後に県民や観光客に「税がどう役立っているか」をしっかり示すことです。観光立県・沖縄がこの税をどう活かし、どんな未来像を描くのか。県民の皆様と一緒になって取り組みたいと思います。

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