沖縄県立病院の赤字、「独立法人化」という選択もあり?

減らすだけでは医療は守れない

沖縄県立病院の経営が、いよいよ厳しい局面を迎えています。

2025年10月現在、2024年度の決算が県議会に議案として提出されており、

6つの県立病院の医業収支は約102億円の赤字

この赤字金額は過去最大規模だと報じられました。(参考:m3.com 医療維新

物価や資材費の高騰、診療報酬の伸び悩み、そして慢性的な人手不足。

全国の公立病院が同じ悩みを抱えるなかで、沖縄の場合は特に“県立病院”という構造が重くのしかかっています。

人事も予算も、全て県庁の手続きと議会の承認を経て動きますので、現場が直面しているのは、数字の問題だけでなく「制度の限界」でもあると言えます。

「職員を減らす」という通達

最近の報道では、病院事業局が職員に対して、「退職者を原則として補充しない」という通達を出したとされています。(出典:琉球新報 2025年10月2日付

この発出はパッと見、赤字拡大を受けた「経営改善」ですが、これは実質的に“縮小方針”であり、既に県立病院では休床・休診の動きも出ており、報道によれば401床が休床中とされています。(琉球新報

確かに、財務的には「人件費を減らせば赤字は縮小する」ように見えますが、人を減らせば、患者の受け入れ数も、医療の安全も、教育の継続もすべてが縮小します。

そしてその影響は、那覇や中部だけでなく、離島や北部にも間違いなく波及していきます。

県立病院が果たしてきた役割

そもそも県立病院の役割は、「採算が取れなくても守るべき医療」を支えることでした。

救急、小児、感染症、精神、そして離島医療。

こうした分野は民間では担いにくく、県立病院が“最後の砦”として支えてきました。

特に県立中部病院は、戦後の米統治期から人材育成と医療教育の中心を担ってきたことは全国的にも有名です。

1967年にはハワイ大学と連携した研修プログラムが始まり、今でも多くの医師が「中部で学び、地域へ戻る」仕組みが続いています。(参考:沖縄県立中部病院 沿革

県立病院の職員は、那覇・中部・南部だけでなく、宮古や八重山、離島の診療所にも異動しますので、沖縄の県立病院とは「沖縄県の医療人材ネットワーク」そのもの。それを“数”の論理で縮小すれば、まず崩れるのは離島医療です。

医師がいなくなり、看護師が足りず、診療所が閉まる可能性があります。しかし、そうなってからでは遅いのです。

では、どうすべきか

私は、今の状況を抜け出すために「独立法人化」を含めた制度改革を検討すべき時期に来ていると思います。

独立法人化とは、県立病院を県庁の一部から切り離し、独自の法人(地方独立行政法人)として運営する仕組みです。東京都や大阪府、兵庫県などが先行して導入し、経営の自由度を高めています。

法人化の利点は主に三つです。

① 医療機器導入や人事異動をスピーディーに決定できる

② 給与や勤務体系を柔軟に設計でき、医師・看護師を確保しやすい

③ 単年度主義から脱却し、中期計画に基づく経営ができる

ただし、「独立=自力で稼げ」、その後は県は責任を持たない!という話ではありません。

もし県が財政支援を減らせば、公共性の高い医療が切り捨てられる危険があります。

だからこそ、法人化を進めるなら、“県が守る医療”を制度に明記することが絶対条件です。

たとえば、法人の中期目標に「離島医療への派遣体制を維持する」「教育・研修機能を存続させる」といった文言を明文化し、それを県が監視・評価する仕組みを整える。それができて初めて、“独立”が責任を伴うものになります。

やるならば、段階的な導入を

しかし、一気に全病院を法人化するのは現実的ではありません。まずは中部病院や南部医療センターなど、採算が取れる可能性が高い基幹施設からモデル導入を行い、効果や課題を検証しながら進めるのが望ましいと思います。

そのうえで、離島病院など、地域特性に応じた運営形態を考えればいいと思います。※北部病院は現在、北部医師会病院との統合を進め、北部基幹病院としての設置に向けて動いています。

つまり、独立法人化は「県が手を離すこと」ではなく、「責任の形を変えて持ち続けること」です。行政の硬直を脱し、現場の裁量を広げながらも、県民の命を守るという原点だけは絶対に手放してはいけません。沖縄県立病院が抱える赤字は、単なる数字の問題ではなく、今後の仕組みをどう作るか?を今まさに考え、実行する機会となります。

「人を減らす」だけでは、医療は守れません。我々にも専門家と知恵と力を合わせて、制度を変える覚悟と、現場を信頼する政治の姿勢が必要です。

撤退ではなく再生を!守りではなく構築を!その先にこそ、県民が安心して医療を受けられる沖縄の姿があるはずです。

参考サイト

  • 沖縄県立6病院 102億円赤字報道(m3.com) https://www.m3.com/news/iryoishin/1264369
  • 退職補充抑制・休床報道(琉球新報) https://ryukyushimpo.jp/news/national/entry-4685621.html
  • 沖縄県立中部病院 沿革 https://chubuweb.hosp.pref.okinawa.jp/information/history/
  • 沖縄県立病院経営強化計画(県公式) https://byoinjigyokyoku.pref.okinawa.jp/userfiles/files/about/plan/R5_keieikyoukakeikaku.pdf
  • 沖縄県立病院決算資料(県公式) https://byoinjigyokyoku.pref.okinawa.jp/data/settlement/

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